2022/12/13
「北欧起業圏「自らを再生する街」 救うのは企業でなく人」(12月5日付『日本経済新聞』朝刊)という記事は,ノキアの携帯電話機事業の危機に見舞われた北部フィンランドの都市オウルが,大量の失業者を出しながらも,その後いかにして産業転換と回復を成し遂げたのかをうまく紹介している.そのポイントは,(1)公的資金によって既存企業・産業を救うのではなく,人材に投資したこと,および,(2)起業を促進したこととされている.そして,充実した福祉国家が人材の流動を支えていることが強調されている.特に「企業ではなく人を救うべく投資をする」という考え方は,オウルでの産業転換を理解する上で重要なポイントだと思われる.これは,既存企業を合併させて,そこに公的資金を投入した日本の場合とは明確に異なっている. 日本でも,いわゆる「新しい資本主義」政策(?)の中で,リスキリングなどの「人への投資」が強調されていることは周知の通りである.この記事が紹介するオウルの事例は,こうした現内閣の方針を後押しするような意味合いを持っているようにみえる. しかし私見では,人材投資や起業支援策は,オウルの産業転換を説明するストーリーの半分でしかない.いくら人材を作り出したとしても,彼らの「行き先」を作り出せない限り,人材投資は産業転換に結びつかないことは自明である.私見では,オウル地域で特筆されるべきなのは,デジタルヘルスケアや循環型経済(circular economy)など,転換すべき産業分野を,地域の産官学労が集まって定め,そうした産業の基盤を作るための投資を確実に行ったことである.それはいわば,地方自治体や大学が中心となって実施した地域産業政策だと言うことができる.またこの動きを促進するために,公的需要を作り出すなどの形で,市役所の他部門も貢献した.例えば2010年以降,オウル市や周辺自治体は,ヘルスケアのデジタル化を積極的に進めたが,ここでは福祉サービスの効率化とともに,産業振興も明確に意図されていた.これがヘルスケアデバイスの起業の基盤として役に立つのである. 主に(政治的・経済的)リベラル派が推奨する社会的投資戦略もそうなのだが,日本では,政策的な人材投資が経済成長に役立つという観点が強いように思われる.リベラル派も正統派も,産業・雇用創出の方向性をどうするかという問題意識が少ないという点では全く共通しているのではないか.人材投資は,産業転換や包摂的な成長(inclusive growth)にとって重要なことは言うまでもない.しかし,そうして作り出された人材の行き先として,良質な雇用と新しい産業を作り出すという観点があまりにも弱くないだろうか.そして,その方向性を打ち出す上で,個々の企業・企業家頼みに過度になってしまっていないだろうか.雇用と産業の新しい方向性を見いだす上で,地方自治体の力量と権限を高め,地方大学と協働していくことが重要ではないのだろうか. 多くの人は,北欧モデルというと人材育成・投資を思い浮かべ,その重要性に思いを馳せる.それは間違いなく重要なポイントである.しかし,雇用・産業の方向性をこうして協働的に見出していく,有り体に言えば「民主主義的」なあり方にこそもっと目が注がれるべきではないだろうか.産業・経済分野と「民主主義」「熟議」などとは,日本ではお互いに全く縁遠いように見えるが,実は案外そうとも言い切れないということであり,非常に面白い. ※オウルでの産業構造転換については,次の拙稿で詳述している. https://researchmap.jp/read0203643/published_papers/38243849

2022/06/26
先進資本主義の多様性というのは,特にHall and Soskice (2001)を嚆矢とする比較制度論ないし比較資本主義論の主要テーマだったと思う.彼らの分析と主張は画期的だったが,それ以降,Thelen (2014)のembedded flexibilization論や,Baccaro and Pontusson (2016), Hassel and Palier...

2022/06/15
脱成長論について本格的に論じる準備はないのだが,先進諸国は,実態としてはすでに脱成長の経済になってしまっていることは,以下の表の通りである.この表は,ある研究の準備のために作ったもので,年平均GDP成長率(%)を示している.

2021/10/14
いちいち見に行くのが面倒になったので,主に自分用にこちらに貼り付けておこうと思う. これらのグラフから言えそうなことはいくつもある. ※2021/11/22追記 シンガポールを追加.また,リンク先グラフが変わってしまっていたため,元に掲示したグラフにリンクするように修正.
2021/03/19
3 日本における「ムーンショット研究開発制度」 (1)目的と概要...
2021/03/19
(※『Trans/Actions』第5号に書いた拙稿を採録したものです) 1 はじめに...
2020/04/19
日本政府は国民一人当たり10万円の給付を行う決定をし,補正予算案の組み替えを行うことになったことは周知の通りである.金額や支給スピードについて批判・疑念が提起されているが,ここではそれらには触れない....
2020/04/15
いわゆる「真水」に該当する金額の小ささや,必要な人に必要なタイミングで届かない可能性が極めて高いことなど,日本政府の経済対策の問題は,かなり取り上げられていると思う.この時期にこうした記事を発表する意図が何なのかに関係なく,この記事は,今回の政府の意思決定には,財政を悪化させることに対する懸念が大きくかかわっていることを示している.いわく,大きな金額の財政支出は財政を悪化させるから不可能という判断である. 財源問題については様々なスタンスがあることは周知の通りである.しかしたとえどういうスタンスをとるにせよ,次の可能性はすべての人が考慮すべきだと考える.すなわち,少額の財政支出で済まそうとしたせいで,感染症が一向に収まらず,より多くの倒産,失業などの経済悪化をかえってもたらし,さらなる財政支出が必要になるという可能性である(経済学で言うと,一種の機会費用が発生するということ).私が調べた限りでは,デンマークの政策当局者はこの考慮を行っていることを明言しているし,大規模な経済対策を行っている欧州諸国も似たようなものだろう.日本とは規模が異なるものの財政赤字を抱えるフィンランドの政策当局者は,財政赤字の解消は二の次であるということ,また,大規模な財政支出を行った他の先進諸国も財政赤字に見舞われることは間違いないので,いま財政赤字を拡大させてもフィンランド国債の格付けが他国よりも格下げされることはないとの認識である. 私は,長期的には税収を確保し,財政再建を行うべきとの立場である.それは多分に,現在は国際的に見ても低い,政府に対する人々の信頼を高めたり,教育や保健を含む,広義の公的な生活保障を充実させることなども必要になり,極めて困難な課題だとも考えている.しかし現在は,社会・経済を破壊しかねない危機なのである.上で述べたことから考えて,現在の状況で財源問題にこだわって財政支出を渋るのは,極めて近視眼的な対応だろう.
2020/04/06
新型コロナウイルス感染症の拡大に対応するための経済対策については,すでに3月17日の時点でこうした提言が経済学者たちによって出されている.その提言も含めて,経済対策が十分に噛み合って初めて,感染防止策が有効なものとなるという認識も広くなされている.だからこそ,先行する他国での経済対策から日本が学べる点も多いだろうと思われる.しかし,比較検討の素材にできるような詳細な情報が少ないことにも気づかされる.そこで不十分ながら,先進的な経済対策を行っていると目されている国の一つであるデンマークの事例について整理しておきたいと思った.関心を持つ方のためにも,私的な覚書をここに公開しておきたいと思う. なお私は,デンマーク経済の専門家ではないので,細心の注意を払ったつもりではあるものの,私が責任を負うべき誤りが残っている可能性がある.この点をご了解・ご容赦いただきたいと思う.

2019/03/29
左に示した表は,主観的ウェルビーイング(ほぼ生活満足度を意味する:以下「生活満足度」とする)とポジティブな感情の規定要因を推定した結果である.ここから分かるのは次の2点である....

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