ベーシックインカムの検討が始まった (3)

2. ベーシックインカムに対する支持動向

次に,ベーシックインカム構想に対する国民の支持動向を,社会保険機構が発表した調査結果を基に整理しておこう.以下の表は全て,この調査結果からの引用である.

 

まずは,ベーシックインカム(perustulo)構想,およびそれに関連する「負の所得税」(negatiivinen tulovero)構想に対する支持率(「大変よい構想だ」「どちらかと言えばよい構想だ」と答えた回答者の合計),および,ベーシックインカムの適切な給付金額について,2002年と2015年の両時点で調査した結果は次の通りであった.

10年以上の時間が経っていても,両構想に対する比較的高い支持率(70%前後)はキープされている.また,負の所得税への支持率が低下している一方,ベーシックインカムへの支持率は上昇している.不況下にある2015年という状況が影響しているのかも知れない.

 

また,ベーシックインカムとして適切と思われる金額だが,2002年時点での平均は,生活費の上昇を考慮した現在価格に直すと763ユーロ(約97,000円)であったのに対し,2015年の平均金額は1,000ユーロ(約128,000円)であった.適切な給付金額が上がっていることもまた,不況下にある2015年の影響かも知れない.

 

次に,回答者の社会経済的地位毎に支持動向を見ると,以下の表の通りである.

ベーシックインカム(perustulo)に絞って見てみよう.2015年で見ると,「労働市場の外部者(työmarkkinoitten ulkopuolella)」(75%),「学生(opiskelija)」(74%),「年金生活者(eläkeläinen)」(71%),「労働者・農民(työntekijä ja maanviljelijä)」(69%)の順に支持率が高い.「企業家(yrittäjä)」の支持率が最低であるのは予想される通りだが,それでも60%の支持を集めていることは注目に値する.ただし同時に,企業家の場合,ベーシックインカムへの支持率が60%であるのに対して,負の所得税への支持は71%にものぼる.両構想への支持率の差は,企業家で最大である.負の所得税とは,低所得者層に限定して現金給付を行うという考え方であるから,両構想に対する企業家の支持に約10%の差があるのは,「労働のインセンティブを削ぐ」という懸念からではないかと想像される.

 

最後に,支持政党毎の支持動向は次の通りである.

ベーシックインカム(perustulo)だけに絞って確認しよう.2015年時点でベーシックインカム支持率が最も高いのは左翼連合(Vasemmistoliitto)(86%)の支持者であり,続いてスウェーデン人民党(RKP)(83%),緑の党(Vihreät)(75%),社会民主党(SDP)および真のフィンランド人党(Perussuomalaiset)(69%)それぞれの支持者であった.真のフィンランド人党以外の,中道右派連立政権の与党である中央党(Keskusta)および国民連合党(Kokoomus)の支持者はそれぞれ62%, 54%と低い水準であった.つまり,ベーシックインカム構想を進めようとしている連立与党の支持者は,野党支持者に比べて,ベーシックインカム構想を支持していないということである.国民全体の支持率が69%だから,両党支持者の支持率はそれ以下である.なお,時系列で見ると,野党である社会民主党支持者の支持率が,2002年の59%から2015年の69%に上昇しているのが最も顕著な変化である.以上から,ベーシックインカムは比較的広範な支持を集めているものの,導入が政治的には一筋縄に行かないことが予想される.