【覚え書き】金を集めること・金を使うこと

日本は巨額の財政赤字を抱えているから,まずは「金集め」=政府の税収確保が喫緊の課題であることは分かる.ところが,「金づかい」=集めたお金をどう使うかということに関する議論も必要であることは論をまたない.些末に陥らずにそうした議論をするためには,「どういう社会を目指すべきか」という大きなビジョンが必要なのだということは,例えば宮本太郎『生活保障』(岩波新書)などがつとに強調するところである.

 

だが管見の限り,目下の日本での議論は「金集め」の方法や是非にあまりに集中しすぎているような気がする.私は財政学の専門家ではないけれども,次のような事実が気になったので,覚え書きをしておきたいと思った.

 

以下の図はいずれも,2009年の『経済財政白書』から取ったものである.1番目の図は,OECD諸国における,税金・社会保障による所得再分配前の所得格差と,所得再分配後の所得格差を示している.ジニ係数が低いほど,所得格差は小さい.これによると日本は,所得再分配前の所得格差はそもそもさほど高くない.むしろ独仏などの大陸欧州諸国の方が格差は大きい.ところが所得再分配後の所得格差は,ほとんどの欧州諸国よりも格差が大きい.例えば,再分配前には日本よりも大きかった独仏の所得格差は,所得再分配後に大幅に縮小している.つまり,日本の「所得再分配効果」は多くの欧州諸国よりも低い.韓国や米国は所得再分配効果がもともと低い.

 

次に,2番目の図は,再分配効果を「公的移転」「税」に分けたものである.これによれば,日本はこれら2つの再分配効果が小さい上,特に税による再分配効果がきわめて小さいことがわかる.

 

日本よりも高率の付加価値税を採用している多くの欧州諸国が高い再分配効果を誇っており,所得格差を確実に縮小している.これは明らかに,日本でも「金集め」だけではなく「金づかい」に関する議論が必要であることを示す何よりの証拠だろう.またそれゆえ,「消費税はいいか悪いか?」「大きい政府か小さい政府か?」等々の俗耳を集めやすい議論は,俗耳を集めやすい分,ことを矮小化していないだろうか.社会の生活保障をどうするのか,雇用との関係をどうするのか,男女間の調整をどうするのか,こういった社会のあり方に立ち入って議論しないと,税制の議論は完成しないのではないか.

 

以上の議論は,所得税・法人税と消費税のウェイトをどうすべきか,という問題とは別であるということを強調しておきたい.とは言え,消費税であろうと所得税であろうと,福祉や教育のシステム基盤が整備されない限り,増税に納得する人は少ないだろうと言うことは可能だろう.